非常に素晴らしいクリスマスプレゼントが届きました。
エボラワクチンは100%有効だそうです。

ギニアとシエラレオネでWHOが主導して臨床試験が行われたエボラワクチン「 rVSV-ZEBOV(エボラウイルス・ザイール株に対応する)」の臨床試験についての結果です。

大分時間が経過しているので、どういった話だったのかという事をまとめてあります。

 

論文情報(詳細はこちらをどうぞ)

論文名:Efficacy and effectiveness of an rVSV-vectored vaccine in preventing Ebola virus disease
: final results from the Guinea ring vaccination, open-label, cluster-randomised trial (Ebola Ça Suffit!)
掲載紙:THE LANCET

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32621-6/fulltext
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32621-6/abstract


リングワクチン接種による効果の確認

2015年3月7日。WHOが主導するエボラワクチン臨床試験は、ギニアの首都であるコナクリで始まりました。ギニアでの臨床試験で使用されれているのは「 rVSV-ZEBOV・VSV-EBOV」と呼ばれているエボラワクチンです。

これは臨床試験第三相と呼ばれる段階のワクチン接種で、既にワクチンの安全性や有効性は確認され、より多様な特性を持った「健康な」人達に対してもワクチンが安全で有効であるのかどうかを確認する為に、接種人数を増やして行われる最終段階の臨床試験になります。

そして2015年3月25日に、そのワクチン臨床試験の第二段階が開始されました。これはエボラウイルス病を発症した患者の周辺の「エボラウイルスとの接触可能性があるが未発症」という人達に対してワクチン接種を行う、というもので、接種は天然痘の撲滅時に行われた手法である「ring vaccination」という手法を用いて行われています。

ワクチン接種を受ける人達は、エボラウイルス感染の高いリスクを持っている人達なわけですが、この臨床試験では「即時のワクチン接種」と「三週間後のワクチン接種」という二つのグループが作られています。

エボラウイルス病を引き起こすエボラウイルスの最長潜伏期間が21日、つまり三週間なので、実際にはワクチン接種グループと非接種グループが作られているという事になります。


ワクチン接種を受けた人達は5837人です。クラスタと呼ばれるグループ(エボラ発症者に対応する集団)としては117になり、グループ平均の人数は80人だそうです。その結果、即時接種グループでワクチンによる保護効果が発揮されていると考えられる接種後10日を過ぎた時点での発症者はゼロ。それに対して遅延接種グループでは23人がエボラウイルス病を発症した事が確認されています。

そしてこのギニアでの臨床試験では、早期段階の報告で非常に高い防御効果が得られている事が示唆されたため、三週間遅延させたワクチン接種という手法は、WHOによって即座に打ち切られました。

発症予防というワクチンが目的とする事象で大きな効果が見込めそうだと判明した時点で、「比較対象群」を設定するという行動は人道的観点からも問題なのです。

その時点での早期報告は「ワクチン接種から10日経過後の発症者はゼロ」というものでしたが、研究者達は非常に慎重にその防御効果はもう少し低いだろうとコメントしていました。ですが、今回の論文では100%の有効性が確認されたという事のようです。


過去記事で振り返る人の為のリンク

ギニアのワクチン臨床試験がスタートした

ギニアは「リングワクチン接種」を開始した

ギニアのVSV-EBOVワクチン臨床試験 成功! 



エボラウイルス病の概要

西アフリカでのエボラウイルス病(エボラ出血熱)の流行は、2013年の暮れにギニアの森林地域で2歳の男児が野生生物(おそらく食虫コウモリだと考えられている)からウイルスに感染した事によって人間の世界に広がり、ギニア、リベリア、シエラレオネという三国を中心に、WHOが把握している人数だけでも少なくとも2万8600人を超える感染者を発生させ、そのうちの1万1000人以上が死亡しています。

エボラウイルス病自体は、既に発見されてから40年ほどが経過している疾患で、特に目新しいものではありませんでした。

エボラウイルス病は野生の生物が持っているウイルスが人間に感染して疾患を引き起こす「人獣共通感染症」と呼ばれるグループの疾患で、いつ、どこで発生するかが不定であり、加えて感染者に重篤な状態を引き起こす為に非常に死亡率が高い事が知られています。


不定期に不特定の地域で感染者が見つかる、というのは防御するのに難しい疾患だという事になります。ですが逆に、エボラウイルス病は死亡率が非常に高い為に恐れられ、また疾患の発生地域が「野生生物との接触が起きる僻地」ということもあって、西アフリカ地域での大規模流行以前には、疾患の発生は「隔離」という手段によって封じ込められ、広範囲に広がるという状況ではありませんでした。

ところが、2013年の暮れから始まった西アフリカでの疾患の流行は、それまでエボラウイルス病が流行していなかった地域で、広域交通網がある程度構築されていたという条件が加わったことによって、都市部にまでウイルスが入り込み、非常に大規模な流行になってしまったのです。

もちろん、西アフリカ地域では上下水道を初めとする社会インフラの整備が進んでいなかった為に様々な感染症が蔓延していたこと、また医療体制の整備が進んでいなかった状況(10万人対して医師が1名ほどという国もある)、植民地であった地域での西洋医療・白人に対する不信などもそういった状況の悪化の要因として挙げられています。

WHOのエボラウイルス病に対する初動が非常に貧弱で遅れた、という事も指摘されました。


そして、エボラウイルス病では不定期に不定地域で少人数がエボラウイルスに感染するという事が有る為、疾患に対抗する為の薬品や疾患を予防する為のワクチンが存在しない状態で大規模な流行を迎え ・・・ 多数の死者が出るという状況が生まれてしまいました。

WHOは、特例として「実験的な薬物(何段階にも及ぶ動物実験や臨床試験を経て、安全に疾患に対応する事が確認され、薬物としての認可を受けていない段階の薬)」の臨床投与を認める、という事を緊急に発表しました。

エボラ治癒者の血液から得られた抗体医薬を含む様々な「治療効果が見込めそうな薬物・ワクチン」がエボラウイルス病の流行地域で「臨床試験」を実施する、という状況が生まれました。

今回報道された「 rVSV-ZEBOV(エボラウイルス・ザイール株に対応する)」というワクチンは、ギニアでWHOの主導で臨床試験が行われ、その後にシエラレオネに臨床試験が拡大されました。両国ともエボラ患者が発生していた時点での臨床試験になりましたが、非常に良い予防効果が有ったとされています。今回は正式に臨床試験の結果がまとめられて論文が発表されたわけです。


これで、今後エボラウイルス病の発生が報告されても、「支援に向かった人達がエボラウイルスに感染して発症し、身体的に大きなダメージを被った」、という非常に心が痛む状況は無くせると考えられます。

また、エボラウイルス病の発生が報告された場合に、早期にエボラウイルとの接触危険性がある人達に対してワクチン接種が実施されれば、感染拡大のリスクが大きく低減する、という事にもなるでしょう。

西アフリカでの大規模流行には間に合いませんでしたが、非常に迅速に臨床試験まで進めたことが、実際の患者での効果を確認できた大きな要因です。二度と大規模流行が起きない様に、これからrVSV-ZEBOVワクチンは「迅速承認」と「迅速な接種体制の構築」という段階に向かう事になります。

本当に、素晴らしいクリスマスプレゼントです。