シエラレオネで非常に多数のエボラウイルス病(エボラ出血熱)患者が出た地域、ホットスポットと呼ばれる地域にあるSukuduという村で、住民の同意を得て血液検査を行ったスタンフォード大学(Stanford University)の研究者達が、10人を超える村人が「無症状のエボラ患者」だった、という事を報告しています。

 

無症状・軽症のエボラ患者達

実際の村の位置をまず見てみましょう。
Sukudu

衛星画像ですが、Sukudu村はシエラレオネの東部にあり、ダイヤモンド採取が盛んな地域の一角にあります。ギニアでエボラウイルス病が人間の世界に姿を現した場所とされMeliandou村がある Nzérékoré Regionに隣接しています。

一見して分かる様にこのSukudu村は周囲を森林に囲まれている「辺境地域の孤立した村」で、他の地域との頻繁な交流はありません。その為900人の住民(100世帯)が住んでいるこの村の中のエボラ感染は、村の人員間でのエボラ感染だったと考えられています。

2014年12月15日から2015年1月14日までに、Sukudu村ではエボラ確定16例、エボラ可能性12例、死亡原因にエボラの疑いがある事例などで34例がエボラウイルス病と判定されていましたが、そのうちの生存者は6人です。

2014年8月から2015年2月までの期間に、このSukudu村を含むKonoという地域では301人という非常に多数のエボラ感染者が出たため、この村を含む領域は隔離封鎖されていますが、その時点で英国軍や赤十字と共に、スタンフォード大学の研究者達も支援に加わっていたそうです。

今回の研究では、エボラ治療施設に収容されて治療を受けて生存した「エボラ治癒者」の血液と、エボラ感染者が報告されていなかったSukudu村を含む地域で「エボラ流行中に感染をを免れた」住民達132人の血液について分析を行っています。



今回の研究に参加した人達は全部で187人ですが、内訳はエボラウイルス病であることが確認されてエボラ治療施設に搬送された後に「エボラから生き残った人達」と「エボラウイルス病にかからなかった人達」の両方です。

また、この地域が検疫隔離されていた時期には、エボラワクチンの接種が始まっていましたが、研究からはエボラワクチン接種を受けている可能性がある住民は除外されています。つまり「ワクチン接種によって誘導されてエボラ抗体」というものの影響は排除できます。

無症状のエボラ患者達

研究者達は、研究に参加する事を承諾した村人達の血液を採取してエボラ抗体を確認しました。そしてその結果、「エボラウイルス病にかからなかった」とみなされていた人達の中から14人の「症状が無かったエボラ患者」を発見しています。

14人のうちの2人は検疫中に発熱を訴えていましたが、12人は症状を何も申告していません。ただ研究者達は「無症状」だった12人が本当に無症状だったのかどうかは、なんとも言えないとコメントしています。

なにしろ「エボラ治療施設に連れていかれたら殺されて臓器を切り取られる」、という悪意あるうわさがまことしやかに広がっていた時期にエボラ検疫隔離という状態が設定されていた村ですから、なんらかの症状が出ていても申告をしなかった、という事は十分に考えられるのです。

もちろん、何らかの症状が出たとしてもその状態から「自然治癒」した結果生き延びている、という事ではあります。症状が出ていたとしても軽いものだった、という事は言えるのでしょう。


本当のエボラ感染者は何人だった?

こういった事実は、エボラウイルス病という疾患が、実際には多くの感染症と同様に「感染後に様々な症状の程度が存在する」疾患である事を示唆しています。つまりエボラウイルス病と診断されてエボラ治療施設に搬送されたのは、感染者の中で非常に症状が重かった人達だった、という事が推測できるわけです。

そういう事を考慮するなら、小さな村の中で「未発見だったエボラ患者」が14人も存在しているという事は衝撃的な事実です。それはもしかすると2万8000人を超えたエボラ患者が公式に確認されているWHO報告が、危惧されていた様に非常に過小評価だったという事を示唆するものだからです。

またそれは同時に「エボラウイルスの感染経路」の中で、どこで誰から感染したのかが不明だったケースが、こういった「顕在化しなかったエボラ感染者」を経由したものだった可能性も示唆しています。

もちろんとても小さな一つの村での結果を、何万人という感染者が出た西アフリカでのエボラウイルス病の流行全体に投影する事には無理があります。それでも、今回確認された「症状が出ていないエボラ患者」は、エボラウイルス病と戦う戦略を構築する際に考慮されるべき要因になります。

スタンフォード大学の研究者達は、症状の少ないエボラ感染者達による感染拡大の潜在的リスクとそういった「隠れていたエボラ患者」達の臨床後遺症を理解するためには、さらなる研究が必要だ、と述べています。



論文情報
論文名:Minimally Symptomatic Infection in an Ebola ‘Hotspot’: A Cross-Sectional Serosurvey
論文誌:PLoS Neglected Tropical Diseases
doi: 10.1371/journal.pntd.0005087
http://journals.plos.org/plosntds/article?id=10.1371/journal.pntd.0005087