Eurekalert!に日本経済についての分析記事が出ています。

Baker Institute experts: Without pushing deregulation, the Japanese economy cannot grow
PUBLIC RELEASE: 31-AUG-2016
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-08/ru-bie083116.php

/* 長いですが、まだ単なるメモ書きです。資料の添付が行われていませんので、読み飛ばし可。「 メモ」を先に置くと短いと思われるぞ、と言われて表題を変更しました。*/


特に新しい知見というわけではないのですが、日本経済の再成長の為には「規制緩和」が必要だ、という事が主張されています。

既に日本は四半世紀に近い時間、「デフレ」の状態にあります。解決策として提示されているのはTPPの推進などを含む「規制緩和」なのですが、停滞の原因について最も大きな影響を及ぼしているのは「人口動態」だ、というのが研究者達の主張です。

今回は人口についてちょっとまとめています。



今回の主張の基礎部分になる人口動態は国立社会保障・人口問題研究所の推計値に基づくのですが、推計によると現状では「日本では年間100万人以上の労働者が減り続けている」状態が続いています。

これは主に高齢化による「労働市場からの退出」が影響する部分なのですが、日本の場合には少子化が進んでいる為、「新たに労働市場に参入する人(主に若年層)」から「労働市場から退出する人(主に高齢層)」を引いた数字が100万人ほどになる、という事です。


例えば現在の65歳は「1951年・昭和26年」の生まれ年です。その年代は、戦後に外地から日本に戻ってきた大量の帰還兵によって作り出された団塊世代(ベビーブーマー世代)である「1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)」の大規模集団の次の世代になります。

こういったものは実際の数字を見た方が早いので政府統計を出します。平成25年10月1日の時点での年齢別人口です。

人口総数は1億2729万8000人ほどです。 
    0歳 1,042
    1 1,042
    2 1,067
    3 1,044
    4 1,044
    5 1,073
    6 1,069
    7 1,061
    8 1,059
    9 1,099
   10 1,118
   11 1,149
   12 1,166
   13 1,177
   14 1,179
   15 1,198
   16 1,193
   17 1,186
   18 1,229
   19 1,241
   20 1,221
   21 1,238
   22 1,228
   23 1,246
   24 1,272
   25 1,304
   26 1,334
   27 1,360
   28 1,414
   29 1,458
   30 1,475
   31 1,480
   32 1,498
   33 1,565
   34 1,605
   35 1,674
   36 1,715
   37 1,801
   38 1,884
   39 1,986
   40 2,022
   41 1,983
   42 1,933
   43 1,879
   44 1,850
   45 1,811
   46 1,805
   47 1,412
   48 1,746
   49 1,633
   50  1,594
   51 1,541
   52 1,516
   53 1,528
   54 1,555
   55 1,514
   56 1,472
   57 1,546
   58 1,599
   59 1,600
   60 1,700
   61 1,793
   62 1,900
   63 2,042
   64 2,231
   65 2,210
   66 2,096
   67 1,306
   68 1,396
   69 1,692
   70 1,631
   71 1,665
   72 1,608
   73 1,447
   74 1,247
   75 1,315
   76 1,329
   77 1,307
   78 1,224
   79 1,127
   80 1,096
   81 1,035
   82 957
   83 870
   84 804
   85 735
   86 664
   87 602
   88 507
   89 417
   90 348
   91 291
   92 238
   93 204
   94 134
   95 111
   96 87
   97 67
   98 44
   99 33

  100 歳以上 55(5万5000人)

この数字で、「68歳が139万600人・67歳が130万6000人」であるのに対して、 「66歳が209万6000人」になっている部分が、海外からの兵士の帰還によるベビーラッシュの始まりになります。その後は少し出生数が減少していますがそれでも180万人近い人数だったりするのです。


そして統計上「生産活動」からの引退が起きるこの団塊世代に対応して新たに労働市場に参入してくる世代は、20歳から22歳程度だろうと考えられますが、実際には現在20歳である人の人口規模は122万人ほどです。しかも大学進学が半数に近いので実数は数十万人規模で少なくなります。

団塊世代では「専業主婦」という形で労働市場から退出していた女性達も多かったので、人口規模がそのまま労働人口には何営されませんが、その部分を差し引いても現在年間100万人ずつ労働人口が減っているのは「人口動態の結果」、という事がわかります。

そのような覆しがたい要因によって否応なく減少する労働人口と、高齢者の労働期間の延長や女性の出産による労働市場からの退出を抑制する政策の策定、扶養控除などの見直しによる既婚女性の労働市場への再参入の促進などの政策がせめぎあっているのが現在の姿です。


出生数の減少と死亡数の増加

出生数の減少は特に若年男性の「正社員(収入が安定している)」から「非正規社員(収入が不安定)」への置き換えが響いています。子供を育てられる経済状態が得られないと結婚が減少し、婚外子が少ない日本では出生数が減少します。

「規制緩和」とやらで小泉政権が「非正規労働者を働かせることが可能な職種」を増加させた頃から非正規雇用は急増しました。表面的には「平均寿命の延び」によってその負の影響は一定程度覆い隠されていたのですが、本質を放置してうわべを取り繕っても無駄という事です。


また、若い人が全員結婚して子供を二人作ってもそもそも母数がかつてのベビーブーマー達の6割程度なので、激増する年間死者数(主に高齢者)を出生数が上回る事はありません。現在推進されている政策は、あくまで将来(20年から30年後)の人口安定を目指すものです。

平成27年(2015年)推計では「一年間の出生数は100万8000人」で、「一年間の死亡数は130万2000人」です。自然減と呼ばれるこれらの数字の差は「29万4000人」になります。それをすぐに解消できる魔法はありません。

つまり「人口構成が安定するまで(高齢層の割合が一定レベルに減少するまで)」をどうやって切り抜けるか、というのが現在進んでいる話になります。


富の再分配は進むだろうか?

ここで必要な政策は「出生数を増やして将来の生産活動年齢を増加させる」という事と、「生産世代に扶養される高齢世代を減らしてゆく」事の両方になりますが、実際には高齢者を減らす事は不可能ですので、「扶養される高齢世代」を減らしてゆく、という部分がカギになります。

できれば、「高齢者は働かない」を無くすのが良いです。もちろん、肉体的・精神的な衰えには個人差があるという事を考慮する必要はありますが、一定の場所に拘束された長時間労働でなく働ける仕組みが構築できれば、障碍者も含めて就労機会が拡大します。なるべく多くの人が「社会的に生産活動に携わる」事が可能になるシステム構築は必須です。


また本質的には、再分配政策の再構築が行われ、若年者から相対的に富裕な高齢者への富の移転が是正されない限り、社会の不安定化の流れは変わりません。基本的には世代間扶養の概念が共有される事が必要ですが、年金による富の再分配システムでは、「富裕な高齢者から同じ時間を生きてきた貧しい高齢者への富の移転」が行われる事になるでしょう。

年金を減らせない場合、税金という側面からのアプローチもが有りえますが、その場合には相続税の強化と富裕層への課税強化、資産ごとの課税の不公平の是正、税の捕捉率の不平等の是正などが必要になります。海外への逃避が言われますが、海外に適応できるのは「資産を持つ高齢層」ではありません。その部分がカギです。

相対的富裕層が「社会の不安定化よりは、税金の増額の方がよりましだ」という判断ができない場合、将来的に治安が悪化する事は確実です。日本の治安状態は貧しかった敗戦直後から劇的に改善されてきましたが、反転する危険性は高くなっています。

間もなく死んでゆく私達のような年齢層にはあまり関係ありませんが、子孫が日本で生きてゆく事を前提にするなら、是正は早い方が良いのです。

また、経営能力が無い首長が統治する地域は更に衰退してゆきますので、居住地域の選択というのも重要な要素になります。寄らば大樹の陰というのは、社会的な便益を求めて居住地を選択する場合にはとても正しい指摘です。


AIは敵ではない

ところで、現在「AIの導入によって仕事がなくなる」と大真面目に主張する向きもありますが、「奴隷労働を想定した海外からの出稼ぎ」は、現在の日本の経済状況と奴隷の供給元として想定されていたアジア諸国の所得の向上を考え合わせるともう実現可能性は低くなっています。AIの導入は必然でしょう。

/* それでも「会黒人奴隷」が必要なら日本人と同じ給与・社会保障を必要とする事をはっきりさせ、現在は無視されている「外国人の定着にかかわる社会的費用」などの負担部分を誰が支払うのか(私は当然彼らを雇用した人間だと考えます)についてもはっきりさせる必要があります。*/

ただ下手をすると、AI導入による特定少数による利益の収奪がより一層進むことも有りえますので、やはりここでも再分配システムの再構築は必須になります。

もちろん特定の領域では失業も生じる事になります。現状では、「衰退産業から新興産業への人の移動」は主張されていますが、そういった場合に必須になる教育訓練は、実は「受ける側に学ぶための基礎ブロック」が無いと、あまり有効に働きません。

例えば工場労働者が失業し、次の日からサービス業従事者として対面販売に携われるかどうかは、その人が持っている資質によりますし、もしそういった適正が有ったとしても、職業環境の激変によるストレスは個人の「幸せ」を低下させます。

職業の転換が難しいのはその為です。特に年齢が上がると、柔軟性が無くなりますので、ミスマッチが生じる状況はこれからますます大きくなるのだろうと考えられています。未来の衝撃が描いていた世界です。

/* 職業転換が容易でない状況は、政策を作る側が終身雇用が基本的に保障されている公務員という職業での雇用保障が無くなった場合に、自分がどんな職業に従事できるだろうか?、という事を確認する場合にとてもよく理解できるのかもしれません。

日本の転職市場はほぼ機能していませんし、公共職業安定所で自分が転職後に得られる給与もいっしょに確かめると、より労働環境への理解が進むかもしれません。*/


衣食住の最低保証

そういった状況では、生活保護を含めた「社会のセーフティーネットの再構築」も必要です。多分最初の一歩は低収入者への家賃補助(空き家の所有者への補助金では無い)とフードチケットになるでしょう。

生活保護とも関連しますが、基礎的な部分での生活保障は薄く広くというのが正解だと考えます。現状のように抽選で公営住宅に入居出来たらラッキーというのは、政策的に間違っています。生活保護受給者よりも生活レベルが低い年金受給高齢者が少なくないことも、それが必要な事を示しています。

また、最小限の設備とプライバシー確保機能を持つ「個別居住スペース」と「共同利用施設(多分掃除が大変な風呂と少量調理が難しい食事」の一体化整備によって、孤立した生活者を減らすという方向も必要になります。

現状の公営住宅は、生活能力が低下した高齢者の単身居住・夫婦居住には向いていません。市街地ではない被災地で新しく作られる公営住宅を見ていると、上手く方向転換しないと「きれいな廃墟」が出来そうだな、という感想しか浮かびません。


食に関して言えば、特に成長期の食の貧困は、その発育にも影響を及ぼし生涯にわたってマイナスの影響が生じる事が、海外の研究で指摘されていました。特に子供を育てている世代のシングルマザーに対する食費補助の増額は、将来的な働き手の健全育成・社会不安低下の抑制という意味で考える必要があります。

もちろんフードチケットと不正利用、という切っても切れない話は実際にそのシステムを導入している国では常にあるわけですが、膨大なデータの突合せを可能にするAIが広く使われる様になる近い将来、そういった不正を隠ぺいする事はより難しくなるでしょう。

例えばあなたが、自分の収入とその支出を把握できるならば、すべてのデータを並列的に扱う事が可能なAIがそれを見つけられない、というのはあまりにマシンの能力を低く見た傲慢さ、という事になるでしょう。

またそういった時代には「脱税は悪質な犯罪行為」という認定により、処罰が厳しくなる事が有りえます。それは、「自分が負担すべき税金を免れ、他者の税金を自分自身の利益の為に使用する」悪質な行動だからです。

データは消えない、という事を、ほとんどすべての人達は軽く考えすぎている気がします。


夜は涼しいのでついついメモ書きが長くなりました。後でまとめなおしましょう。