エボラウイルス病(エボラ出血熱)は、ギニアとリベリアで発症者が出た最新の再発生が抑え込まれ、無事に両国ともにエボラ清浄国(エボラフリー:国内でエボラウイルス病が流行していない状態)に戻っていますが、今回エボラウイルス病の予防薬として「ケルセチン-3-β-OD-グルコシド:Quercetin-3-β-O-D-glucoside 」が希望が持てる、という報告が出ています。

参考記事:WHO:2016年6月1日 ギニアがエボラ清浄国に戻った

参考記事:WHO:2016年6月9日 リベリアがエボラ清浄国に戻った


エボラウイルス病の治療と予防

エボラウイルス病では、現状ではまだ「未認可」の段階ですが有効性が期待できそうな複数の薬物が既に出てきています。また事前のワクチン接種によって、エボラウイルスに対する免疫を獲得する事が可能になっているとも考えられています。

参考記事:ギニアのVSV-EBOVワクチン臨床試験 成功!


でもなにしろ、このエボラウイルス病という疾患は人獣共通感染症と呼ばれる、野生生物と人間の両方が同じウイルスに感染して広がる疾患なので、「いつ」、「どこで」、「誰が」その疾患を発症するか予測する事がとても難しいのです。

エボラウイルス自体は「エボラウイルス病の症状を発症した後の患者の体液との直接接触」が主な感染ルートだと考えられていますが /* その他の感染経路として精液と母乳が実際に感染を引き起こした事が確認されている。 */、エボラウイルス病の初期段階の症状がこの疾患の発生地であるアフリカで報告されている他の疾患、例えばインフルエンザやマラリアなどの症状と類似しているため、発見が遅れがちです。

また、エボラウイルス病を引き起こすエボラウイルスには複数のタイプが存在している為、発生が報告されてから「その型に適応したワクチン・薬物」を手配する事が必要になります。

いつ、どこで、どの型のエボラウイルスによって発症者が出てくるか予測できない、というのはなかなか厳しい話だと思われます。


ケルセチン-3-β-OD-グルコシド

そういった中で今回報告されたのが、「ケルセチン-3-β-OD-グルコシド(Quercetin-3-β-O-D-glucoside:Q3G)」という化合物です。この化合物はフラボノイド誘導体なのですが、マウスを使用した実験ではマウスをエボラウイルスに感染させる30分前に与えた場合でも、感染を防ぐ効果が得られたとされています。

報告によると、Q3Gはエボラウイルスが感染したマウスの細胞に侵入する初期段階で、その活動を妨害しているとされています。また、Q3Gはエボラウイルスの異なる2つの株に対して感染予防効果がみられたそうです。

もちろんこれはマウス実験での話なので、予防原理が実証されたという事でしかありません。今後は霊長類のサルで効果の確認が行われる事になるでしょう。人間に対してどうなのか、という部分はその時点でも残りますが、もしサルで効果が見られれば、エボラウイルスとの闘いの武器庫に新たな装備として加える事が可能かもしれない有望な候補になります。

サルでも効果が出てくれるといいのですが。

論文の概要
Prophylactic efficacy of Quercetin-3-β-O-D-glucoside against Ebola virus infection
Copyright © 2016, American Society for Microbiology
http://aac.asm.org/content/early/2016/06/07/AAC.00307-16.abstract



サルで効果が確認された場合の実際の使用法では、エボラウイルス病患者が報告された段階で周囲の人達にまず服用させる、といった使い方が想定されます。もちろん迅速に予防接種を行うという事と並行して、ですが。

エボラウイルスでも狂犬病ウイルスの様に、感染後のワクチン接種によって発症が防げる様になるといいのですが、実際には「早期にエボラウイルス病として鑑別して治療を開始する」事が、最も重要な救命手法であるエボラ治療の現状はそれ以前の段階かもしれません。