WHO:5月12日 簡易版エボラ情報」でお伝えしていた様に、リベリアはエボラウイルス病(エボラ出血熱)の再燃を無事に抑え込み、新たな患者の発生が報告されないまま42日間のカウントダウンを粛々と遂行していました。

WHOは2016年6月1日付けで、ギニアが最後の患者となった70歳代の女性ヒーラーの二度目のエボラ陰性確認から42日間、新たなエボラ患者の発生が無かった事を確認し、ギニアは正式にエボラ清浄国(エボラフリー)である、と宣言しました。

今回はそれに引き続いて、リベリアで最後の患者となった5歳の男児の二度目のエボラ陰性確認(4月28日)から42日間、リベリアで新たなエボラ患者の発生が無かった事を確認し、WHOが2016年6月9日付けで「リベリアはエボラ清浄国(エボラフリー)である」と公式に宣言しています。

そしてこれは、リベリアにとっては4回目の「エボラ清浄国」認定という事になります。


エボラウイルスの潜伏

2014年に感染拡大が明らかになったエボラウイルス病の流行では、ギニア、リベリア、シエラレオネという西アフリカ三国が、いずれも「エボラ再燃」を経験しています。幸い再びそれが大規模な流行に拡大する事はありませんでしたが、各国はエボラウイルスの潜伏に悩まされ続けてきたのです。

例えば今回無事に「エボラウイルス病の国内での流行が起きていない:エボラ清浄国」状態に戻ったリベリアは、最初のエボラウイルス病の大規模感染の終息に向けてカウントダウンが進んでいた時期に、突然のエボラ患者発生報告によってカウントダウンが中断されています。

報告されたのは女性患者だったのですが、その感染経路を調査してゆく中で「エボラ治癒から半年以上が経過していたパートナーの男性」の精液からエボラウイルスのRNA断片が検出され、世界に衝撃が走りました。

この「エボラ治癒者の男性の身体に潜伏していたエボラウイルス」という状況は、「免疫特権」と呼ばれる免疫系からの攻撃を免れる特徴を持つ特別な組織・器官である、脳・目・精巣などにエボラウイルスが入り込み、ひそかに増殖を続けていた、という状況を明らかにしました。


その後にWHOはエボラ治癒者の男性達にナイトライフでのコンドーム使用を推奨する方針を出しましたが、「そういった予防措置が必要とされる期間は現状では不明」とされていました。西アフリカのエボラ治癒者達を対象にした研究がその後に開始され、エボラウイルスが治癒者の体内で9ヶ月を超えて残存している事例が発見されていますが、最新の報告では潜伏期間は最長で1年ほどの様だ、という事が報告されています。

参考記事:エボラウイルスの残存期間は1年程度

参考記事:シエラレオネのエボラ治癒者達から「陽性」が見つかった


今度は?

さて、では今回のリベリアのエボラ清浄国認定が何を意味するのか?、という事について少し考えてみましょう。

実は、リベリアが最初の大規模なエボラウイルス病の流行を抑え込んで、WHOから正式にエボラ清浄国の認定を獲得したのは2015年5月9日なのです。ちょうど今から1年前という事になります。

参考記事:リベリアはエボラから解放された


そして現在の最新の知見で、「エボラウイルスの最長潜伏期間は1年程度」である事が明らかになっている事から、リベリアでの最初の大規模流行から1年が経過した現在、身体内にエボラウイルスが潜伏しているエボラ治癒者はほとんど存在していないだろう、という事が推定されます。

つまり、リベリア今後エボラ治癒者を起点としたエボラウイルス病の再燃が生じるという懸念は非常に小さくなったと考えられるのです。

もちろんエボラウイルス病では、清浄国認定を受けた国はその後に90日の間、新たなエボラ疾患の発生を厳重に監視し、万が一のエボラ再燃事例を迅速に発見する体制をとるサーベイランス期間に移行する事になります。

リベリアでも今後、さらなる再発が起きうることを想定してサーベイランス期間を粛々と過ごす事になるわけです。

なにしろ、今回のリベリアのエボラ再発は、そもそもが「隣国のギニアでのエボラ再燃」からの延焼のようなケースでした。それは隣国ギニアでエボラウイルス病を発症していた夫に会いに行ったリベリアの妻とその二人の子供がエボラウイルス病を発症した、というケースだったのですから。

リベリアの隣国であり、それぞれの国の人達が国境を越えて行き来する状態が日常であるギニアもシエラレオネも、リベリアよりも遅れてエボラウイルス病の流行を抑え込んでいます。つまり「エボラウイルス病の終息から1年」には到達していないのです。

こういった事実からもまだ、エボラ再燃への厳重な警戒は必要だという事がわかります。


エボラワクチンの接種は進んだ

ですが、一つ幸いな事があります。

エボラウイルス病では、既にエボラウイルス感染時に発症を抑え込めると考えられるワクチンが発見されているのです。このVSV-EVOB(VSV-rEBOV) と呼ばれるワクチンでは、ギニアの臨床試験で対象になった接種後10日を経過した「エボラ患者の周囲の人達」からの新たなエボラウイルス病の発症者がゼロだった事が報告されました。

参考記事:ギニアのVSV-EBOVワクチン臨床試験 成功!

その後は、新たなエボラ患者の発生が報告されると、発症リスクが高いと考えられる人達に対して、このワクチンが接種されています。これは天然痘の撲滅の際に使用された「リングワクチン接種」という手法なのですが、実際にエボラウイルス病の広がりは抑え込めている様です。

このVSV-EVOB(VSV-rEBOV)ワクチンは、現時点ではまだその予防効果の継続期間などについての検証が途上ですが、エボラウイルスそのものが本来は「感染者の体液との直接接触」でしか感染を起こせないタイプのウイルスである事から、新たなエボラウイルス病の感染拡大を防ぐには十分な力を持っていると考えられています。

エボラウイルス病の治療に献身的に取り組み、そのウイルスの犠牲になった多くの医療従事者達にワクチンが間に合わなかった事が、残念でなりません。


最後に、リベリアでは最後のエボラ患者になっていた二人の幼児が、二人とも命を取り留めています。ZMappが投与されている事が報じられていた事例です。致死率が高い幼児が治癒した事実から、どうやらこの抗体医薬は効果を発揮する様だ、と考えられます。

臨床試験での結果は出ていませんが、抗体医薬としてのZMappは今後アフリカで再びエボラウイルス病の発生が報告された際に、力を発揮する事になるでしょう。

ファビピラビル・アビガンが「エボラウイルスに対する治療効果が有ったのかどうか不明」な段階であるのが、とても残念です。他の疾患に対する投与では実際に治療効果が有る事が判明しつつあるものも複数あるのですが ・・・ あきらめずに今後も報告を追いたいと思います。