ジョンソン&ジョンソン社によって開発が行われているエボラワクチンの臨床試験第一相の報告が出ています。

このワクチンについては既に説明を記事にしていますが、いちおうおさらいから入ります。


J&Jワクチンについて
米国国立衛生研究所(NIH)とジョンソン·エンド·ジョンソン(J&J)の医薬品部門であるヤンセンファーマシューティカル社が共同開発したワクチンで、ヤンセン社の予防ワクチンとデンマークのバイオ企業であるBavarian Nordic社のワクチンを使います。

このワクチンは、「エボラウイルスの異なる遺伝情報」を組み込んだ2種類のワクチンを、少し時間を空けて2段階で接種する、という手法を使う事によって、より強い免疫を作り出す事を目指すワクチンで、2種類のワクチンに含まれるエボラウイルスの一部は、それぞれ異なっています。

臨床試験の開始が前述した二つよりも遅れたため、臨床試験が初期段階だった段階でエボラウイルス病の患者がほぼいなくなっている状態になってしまいました。その為このワクチンも実力が不明な段階です。

またこのワクチンのガーナでの臨床試験では、ワクチン拒否という事も起きています。(無事に試験が進められる状態になるまでにWHOによる安全宣言や地域住民との大規模対話集会などが必要になりました。)

参考記事: ガーナのワクチン試験が停止された


第一相臨床試験の条件

今回報告が出たのは「忍容性(ワクチン接種による副反応の強弱を示す用語)」と「2つのエボラワクチン候補の免疫原性(上手く抗体を作り出せるおとりになっているかどうか)」についての臨床試験である第一相臨床試験についてのものです。

この臨床試験は「偽薬:プラセボ」と呼ばれる効力を発揮しない液剤も使用している、科学的に厳密な臨床試験です。初期のテストは英国で行われ、その後に欧州各国と米国、最後にアフリカへと対象が広げられました。

二種類のワクチンは「アデノウイルス型26ベクターワクチン:Ad26.ZEBOV」、「修飾されたアンカラベクターワクチン:MVA-BN-Filo」と呼ばれています。

今回英国のオックスフォード大学が行った臨床試験では、被験者達は87人で年齢は18歳から50歳の間です。この人達を5つのグループに分けて臨床試験が進められました。

実際のワクチン接種グループでの条件は次のようになっています。
  1. 最初にAd26.ZEBOV、28日後にMVA-BN-Filoを接種する
  2. 最初にAd26.ZEBOV、56日後にMVA-BN-Filoを接種する
  3. 最初にMVA-BN-Filo、28日後にAd26.ZEBOVを接種する
  4. 最初にMVA-BN-Filo、56日後にAd26.ZEBOVを接種する
  5. 最初にAd26.ZEBOV、14日後にMVA-BN-Filoを接種する
この臨床試験では1から4のそれぞれのグループで1/6の確率でプラセボが入る設計になっています。またこの臨床試験には2度目の接種を受けていない4人が含まれているそうです。


結果

接種後の8か月の追跡が行えたのは67人でした。

最初にAd26.ZEBOVを接種した場合に免疫反応が得られていました。また、ブースターショット(免疫を強める為の第二回目の接種)としてMVA-BN-Filoを使用した状況では、特定の免疫が持続的に高くなったそうです。

これは最初に接種するワクチンがAd26.ZEBOVでなければならない、という事を示している結果です。霊長類による動物実験ではAd26.ZEBOVのみで免疫反応が得られている事が既に確認されています。恐らく人間でも同様にAd26.ZEBOVによる最初のワクチン接種によって、一定の保護が得られると考えられる、と研究者達はコメントしました。

また、この臨床試験では両方のワクチンで重篤な副反応は報告されていません。

臨床試験は現在も続行され、ワクチン接種による免疫が有効性を発揮する期間の確認や有効性を担保する抗体のレベルについて、情報が収集されています。


念のため追加。
既に西アフリカのエボラウイルス病は終息しました。時折散発的に再発生が報告されていますが、その場合にはエボラ患者と接触し、エボラウイルスに感染した可能性がある人達に対しては「rVSV-EVOB」と呼ばれるワクチンが接種されています。

これは、ギニアでまだエボラ患者が発生していた時期にワクチン接種の臨床試験が行えた貴重なワクチンで、エボラ患者の報告があった直後の接種群と3週間後の接種群が設定されて臨床試験が進められました。

結果として、直後接種群からは接種から10日を経過した時点で新たな発症者が出なかったという事になり、臨床試験を主導したWHOは初期結果の判明直後に、接種対象者全員に「エボラ患者報告直後のワクチン接種」を行う事を発表しています。

ですが、常に複数の選択肢を保持しておく、というのは医薬品では鉄則です。とくに現時点では「rVSV-EVOB」の免疫の有効性がどの程度の期間継続して得られるのかがまだ不明な段階なので、ワクチンが複数開発されている、というのは心強い事だと考えられます。

あとは、発症後の死亡率を低下させる治療薬なのですが ・・・ こちらの臨床試験はスタート時期が遅かったことも影響し、ほぼ全滅状態です。治療薬として確実に成果が見込める医薬品は、まだみつかっていません。残念な事です。

でも希望を捨てずに、今後の研究を待ちましょう。なにしろエボラウイルス病は、必ず再燃するのですから、治療薬をあきらめることは絶対にできないのです。