エボラ治癒者達では、エボラウイルスが脳に潜伏している状態はまれではないのかもしれない、という怖い話が出ています。

Most Ebola survivors in study experienced brain symptoms 6 months after infection
PUBLIC RELEASE: 24-FEB-2016
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2016-02/aaon-mes021816.php


これは、現在リベリアで米国が行っているエボラ治癒者達を対象にした研究からの初期報告です。


治癒者達の臨床研究

今回の報告は、リベリアでエボラ治癒者達を対象にして行われているエボラ臨床研究からのものです。

参考記事:モンロビアにエボラクリニックがオープンした

対象になっている患者達は82人で、その平均年齢は35歳。

臨床研究対象者達で最も一般的にみられているエボラウイルス病の後遺症は疲労感・脱力感、筋肉痛・関節痛、頭痛、記憶障害、抑うつなどだそうです。


そして「眼に出てくる障害」が報告されています。これはエボラウイルス病が治癒してから後に生じ、時には失明に至る事がある深刻な障害です。

参考記事:エボラウイルスは目の中に潜んでいた

参考記事:サクラ医師の目にもエボラウイルスがいたのか?


この様な症状はエボラウイルス病の後遺症とされていますが、その多くは実際には免疫系の攻撃を受けない体の一部、免疫特権と呼ばれる状態にある特別な器官にエボラウイルスが潜んでいる事が引き起こしているものだと考えられています。

参考記事:米国のエボラ治癒者達は後遺症に悩まされている


免疫特権

エボラウイルス病(エボラ出血熱)では、既にエボラウイルスが免疫系の攻撃を免れる免疫特権という状態にある身体の一部に潜んでいる事が知られています。
 
例えばエボラウイルス病から治癒した男性患者達で、相当長期間エボラウイルスのRNAが検出されているという事がわかっています。

もちろんEbolaウイルスのRNAが見つかる、という事はそのまま感染性を持つエボラウイルスが体内に存在している、という事を意味するわけではないのですが。

 /* エボラウイルスはレトロウイルス・RNAウイルスと呼ばれる種類のウイルスなので、RNAが見つかるという事はエボラウイルスの遺伝情報が確認されたという事を意味する。 */


実際に西アフリカでは治癒者達の臨床研究によってエボラウイルス病の治癒から9か月が経過した時点で、男性の体液からエボラウイルスのRNAが検出されたという事も報告されました。

実際にエボラ治癒から時間が経過している男性治癒者の体液によるエボラ感染が指摘される事例が複数出ていることもあって、エボラウイルスが活動性を持った状態で体内に残存している、という事が指摘されています。

エボラ治癒者達では、治癒後の健康状態について継続的に慎重な見守りが必要だという事が示唆される事例です。


免疫特権を持つ「脳」

免疫特権を持っている組織の一つが脳です。これは免疫系の攻撃によって組織が損傷する事を避ける為に身体が作り出している状態なのですが、その状態は今回エボラウイルスが脳に潜伏する、という非常に厄介な状態を作り出しています。

このウイルスは、どうやら脳に潜んだ後にゆっくりと増殖を続ける状態になっているようで、それが様々な神経症状を引き起こしているのではないか、と考えられています。

ウイルスが神経に潜り込んでしまうと根治が難しいことは、水疱瘡による後遺症である帯状疱疹などで知られている事実ですが、エボラウイルスという非常に危険性が高いウイルスで「脳」への潜伏が指摘されていることは、とてもやっかいなことだと考えられます。


実際に、脳にウイルスが潜伏していると考えられている英国のポーリン看護師は、現在合併症によって三度目の入院・治療が開始されています。


西アフリカの治癒者達

今回の報告によると、リベリアでの臨床研究の対象者だった82人のほとんどで、治癒から半年以上が経過した時点で何らかの神経的障害が生じていたそうです。

治癒後の初期段階の症状として挙げられていたもので厳しいものと考えられるのは「髄膜炎」、「昏睡」、「幻覚」などですが、リベリアの治癒者達では治癒から半年後の時点でも定常的な頭痛、記憶の障害、抑うつ状態などが半数にみられたほか、2/3が身体的な衰弱を訴えていたそうです。

研究に協力していたエボラ治癒者の中からすでに自殺者も出ているという事で、後遺症に対する医療的支援・社会的支援が強く求められる状態だと考えられています。


ポーリン看護師の三度目の入院

先進国での事例では、英国のポーリン看護師がエボラウイルスに感染した後に治癒し、普通の生活に戻っていたのですが、2015年10月に「髄膜炎」という形で脳に潜伏していたエボラウイルスによる後遺症が発生し、一時は危篤状態に陥ったことが報道されました。

そして現在は、再びエボラウイルスによるものと考えられている後遺症で入院中です。

経過についてなどの情報がまだ出ていませんが /* ウイルスの活動が始まったのが確認された時点で、まだ安定状態と報道されている。 */、エボラウイルス病では急激な症状の悪化が生じる為、治療を行っているロイヤルフリー病院は慎重な見守りを続けています。

参考記事:英国のポーリン看護師 3度目の入院


エボラウイルスに感染して治癒してから14か月が経過している時点での「後遺症」というのは、なかなかショッキングな話だと思われます。

そしてそれは、西アフリカのエボラ治癒者達でも同様に進行中なのかもしれない、というのがこの話の一番の問題点です。

過去のエボラウイルス病の流行では、感染集団が小規模であり、また治癒者達のその後の経過などについての詳細な追跡調査も行われてはきませんでした。

エボラウイルスというウイルスが、実際にはどんなふるまいを見せているのか、実は研究は始まったばかりなのです。