リベリアのエボラウイルス病(エボラ出血熱)の「再発生」ケースの終息によって、WHOが「西アフリカ全体でエボラウイルス病(エボラ出血熱)の流行が終息した」事を宣言したのは2016年1月14日の事でした。


2013年の12月に始まったと考えられているギニア、リベリア、シエラレオネという西アフリカ三国を中心に猛威を振るったエボラウイルス病の流行は、このWHOの宣言によって西アフリカ三国全体での流行の終息、とみなされる事になりました。


ところが、リベリアでのエボラウイルス病再発生(2回目の再発生)からの完全終息を受けてWHOが「西アフリカでのエボラ終息」を宣言してから半日もたたないうちに、エボラウイルス病の流行が終息した事を2015年11月7日に正式に報告していたシエラレオネで、新たなエボラ死者が出た事が報告されたのです。


シエラレオネでの再発生

これは、現時点で「エボラ治癒者を起点とした再発生」である可能性が高い事例だとみられています。

この非常に不運なエボラ患者になったのは22歳の女性。Mariatu Jallohという名前のこの女性は学生さんだそうです。死亡したのはシエラレオネのTonkolili地区にあるBamoi Lumaという所で、ギニアとの国境地域です。

この女性は実際にはTonkolili地区ではなくポートロコという地区で暮らしていました。彼女は疾患の治療を求めて家族が暮らしていてシエラレオネの政府病院があるTonkoliliまで戻った後、疾患で死亡しているという事が報じられています。

過去に報じられた事がある「娘がエボラウイルス病である事を認識せずに、ヒーラーの治療を求めて旅をした家族」のケースと同じで、発症した状態で旅をしている模様です。


その為シエラレオネ保健当局は迅速に「彼女の居住地・旅行ルート」の探索を開始し、彼女との何らかの接触が有った可能性が有る人達を特定して隔離する、という作業を進めています。

現時点までに確認された彼女が通過した地区は、KambiaBombaliポート・ロコフリータウンという4箇所で、彼女との接触が疑われている人は109人になっています。また、彼女が治療を受けたTonkoliliで高リスクと判定される人達が多く出ている事が報じられています。おそらく病院関係者でしょう。

既に全員が隔離され、さらなる接触可能性者の探索が進行していますが、現在までの所では新たなエボラウイルス病患者の報告は出ていません。


対策は進んでいる

シエラレオネでのエボラウイルス病は、前述した様に2015年11月7日の時点で終息が宣言されていますが、現時点ではその後に続く「エボラウイルス病終息後の警戒監視期間」にあった為、エボラ患者であった女性が死亡した後の早い段階でそれが「エボラウイルス病の死者」である事が判明しています。

WHOなど保健当局も、患者の死亡後の早期にエボラ感染が発見されていることなどから、確かにエボラウイルス病の発症者は出たが、その後に感染の状況が知られないまま疾患が見えない鎖として拡大してゆく状況にはない、という事をコメントしています。

また、シエラレオネでは既に、ギニアでのリングワクチン試験によって高いエボラ発症予防能力が推定される結果が出ている「rVSV-EBOV 」ワクチンを、エボラウイルス病の患者との接触によってエボラウイルス感染リスクを負った人達に接種しています。

このケースでも、高リスク接触者達へのワクチン接種も進んでいるでしょう。そういった状況にあるため、シエラレオネの保健当局は「エボラウイルス病の患者が再度発生しているが、パニックに陥る必要はない」、という事を国内にアナウンスしているそうです。


彼女にはエボラの症状が無かった

今回の話で報告されている中で特徴的なのは、「死亡した女学生にはエボラウイルス病で特徴的とされる兆候は存在しなかった」という部分です。疾患に対応した病院の関係者達は、「彼女は目の赤み、発熱などのエボラウイルス病の症状を示していなかった」、とコメントしています。

そういった状況だった為に、彼女はエボラウイルス病患者である事を把握されない状態で家族と治療を求めて移動したのだと考えられますが、現在「エボラウイルス病の流行終息後に設定されている90日間の監視強化期間にあったシエラレオネでは、エボラウイルス病である可能性がある死者の遺体から試料を採取する、という事が実施されていました。

典型的だとされるエボラウイルス病の症状が見られなかったこの女学生の遺体からもエボラ検査の為の試料が採取され、英国が運用している分析ラボに送られ、そこでエボラ患者であった事が確認されています。


この状態は監視体制が有効に働いている証拠ではあるのですが、彼女がエボラ疾患で見られる発熱や目の赤みという症状を示していなかった状態で国内を移動している為、エボラウイルス感染のリスクを負った人達は多くなりました。

今後の状況は随時報道される事になりますが ・・・ 発症者が増えない事を祈りたいと思います。やはり、「エボラウフリー」を獲得する道は平たんではないのだ、という事がリベリアに続くシエラレオネでの「再発生」によって明らかになりました。

国際機関やNGOは、エボラウイルス病の治癒者達への支援の拡充を訴えています。再び流行を引き起こす懸念がなくなるには、あと一年程度が必要ではないか、と指摘しています。

エボラウイルス病の西アフリカ地域での終息がいったんWHOによって宣言されましたが、実際にはまだエボラウイルスに対する高い警戒態勢が継続される必要がある、というのが現在の西アフリカの状況です。