さて、いよいよ明日はリベリアが張れてエボラ清浄国・エボラフリーを獲得し、西アフリカ三国はエボラからより一層遠ざかる事になるのですが、Natureに面白い記事が掲載されているので紹介します。

Hunt for Ebola’s wild hideout takes off as epidemic wanes

12 January 2016

http://www.nature.com/news/hunt-for-ebola-s-wild-hideout-takes-off-as-epidemic-wanes-1.19149

この記事は、「人獣共通感染症」であるエボラウイルス病(エボラ出血熱)が人間の世界に出現する事を媒介している動物の探索について書かれているものです。ここでは記事を読む為のキーワードなどが説明されえいます。


人獣共通感染症

エボラウイルスが引き起こすエボラウイルス病は、とても死亡率が高い事で知られていますが、それは「エボラウイルスを体内に持っている何らかの野生動物」と人間との接触によって、人間界に姿を現していると考えられています。


/* このように動物と人間が同じウイルスに感染する状態は、まれではあるのですが、そういったウイルスは人間の身体が普通は対応しない病原で有るために、免疫が無く、時に重篤な状態をもたらす事でも知られています。

例えば「鳥」が感染するインフルエンザである鳥インフルエンザは、まれに家禽として飼育されている鶏を経由して飼育している側の人間に感染する事があるのですが、毎年流行している季節性インフルエンザと呼ばれる人間のインフルエンザを引き起こすウイルスに感染した時に比べて、感染後に非常に死亡率が高くなるものが存在する事が知られています。*/


宿主は不明

こういった人獣共通感染症のウイルスを人間界にもたらす「宿主」と呼ばれる生物は、自らがウイルスに感染していてもそれが自分の身体に与える悪影響を低く抑え込む事が出来る状態にあるために、自分は活動可能な状態で人間を含む他の生き物にウイルスを感染させる源になっていると考えられています。

例えば、カモがインフルエンザ・ウイルスの宿主である事は良く知られています。

今回の西アフリカでの大規模流行の際には、食用として狩猟の大量になっていたコウモリの巣、中空の木の中で遊んでいた幼児が、コウモリの糞などに触れた事でエボラウイルスに感染・発症した事で人間の世界に入り込んだのではないかとされています。


関連記事:エボラウイルスは西アフリカにずっといたのか?

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でも、実は今回の流行の源であるかもしれないとみなされているコウモリでは、まだ「エボラウイルスに感染して飛び回っている」状態のコウモリは発見されていません。

もちろん野生のコウモリの中からエボラウイルスを持っている個体を探す試みはずっと続いているのですが、「抗体を持っていた」コウモリの個体は発見されても、実際にエボラウイルスが発見された事はありません。

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実は宿主はコウモリでは無い?

この状態に関して、研究者の中には「コウモリ」に焦点を当てすぎる事無く、より幅広く自然宿主を探す必要があると考える人達も存在しています。

そういった方向を探索すべきだと考える研究者達は、「コウモリはアフリカ全体に大量に存在しているが、エボラウイルス病の発生件数はそれを考慮すると少なすぎる」、と指摘しているのです。

そして有りうる「宿主」として提案されているのが、「昆虫」や「真菌」といった生物です ・・・ 探索が大変そうなターゲットだ、という事は明らかです。


また、身近な動物全般を対象にして調査を行うべきだという事を主張しているグループもあります。犬、猫、ネズミ、牛、豚、鶏 ・・・ そういった動物全般を対象とする研究も開始される予定だそうです。


次の流行地危険地域は?

また、こういったアプローチとは別に、植生や地域の人々の活動、動物の分布、過去のエボラウイルス病の野生生物での発生状況などの情報から、危険な地域を割り出してゆくという手法もとられています。

例えば人間の親戚であるゴリラやチンパンジーといった類人猿は、人間と同様にエボラウイルス病に感染して、時に大量死が生じている事が報告されています。そのような事例を網羅的にまとめる事によって、その状況を引き起こした要因が見つかる可能性もあるのです。

更に、野生生物との接触機会が多い、ハンター達に注目したり、機械学習によってリスクを管理しようとしたりする試みも出ています。いろいろなアプローチで、研究は進んでいるのです。



記事は、何が「エボラウイルスを人間の世界に持ち込んでいる生物」なのかを突き止める事はとても大変だが、エボラウイルス病に注目が集まっている今、研究を加速させエボラウイルスの源を探し当てようという動きが起きている、と結ばれています。

次の大規模流行を引き起こさない為のワクチン接種などにも、こういったリスク把握は役立つ事になるでしょう。