不整脈薬、認知症に効果
マウスの神経減少防ぐ
 
 不整脈の治療薬が、アルツハイマー病で起こる脳の神経細胞の減少を防ぐ効果があるとのマウスの実験結果を、国立長寿医療研究センター(愛知県)や理化学研究所(埼玉県)、同志社大(京都府)などのチームが16日、英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ電子版に発表した。

共同通信 2015年12月16日 
http://this.kiji.is/49825452063311354?c=39546741839462401



研究に使われた薬は「イソプロテレノール」で、処方薬です。不整脈や気管支ぜんそくの治療に使われているものなので、現在も投薬を受けている人がいます。

投薬によってアルツハイマー病のモデルマウスで、脳の神経細胞の減少を防ぐ効果が実際に確認されました。念のため、マウスです。

研究では、「タウ蛋白質の凝集」を阻害し、神経細胞脱落の抑制にきわめて高い効果がある薬物をスクリーニングしています。そして有効性を発揮するのが「ドーパミンやアドレナリンのようなカテコール核をもつ薬剤」だったそうです。

今回は、アルツハイマー病モデルマウスに対して、処方薬としても使用されている「D/L―イソプロテレノール」を3か月間経口投与し、タウ凝集の阻害と、それに伴う神経細胞脱落の抑制を確認しています。神経細胞の死滅が減少した結果として、神経活動の低下や異常行動の改善効果も得られたそうです。


アルツハイマー病研究

アルツハイマー病で観察されている状態は、脳に「βアミロイド」、「高リン酸化タウ」が存在し、その結果として脳の神経に変性が生じて死滅するというものです。これが記憶を失わせるという症状を引き起こします。


かつてアルツハイマー病では、「βアミロイドとタウ凝集」というものをターゲットとして疾患の治療手法が追究されていました。

βアミロイドが代謝不良によって蓄積してタウという凝集状態を作り出すと、脳の神経細胞が死滅して、記憶が失われてしまうと考えられた為です。そして実際にβアミロイドを除去する「βアミロイド抗体」の投与が試みられました。

ところがβアミロイド抗体の投与は動物モデルでの老人斑の除去と記憶学習能の改善を示したのですが、人間で抗体投与を行って老人斑を除去しても認知機能低下の進行は抑制出来なかったのです。

/* これが、猫がアルツハイマー病のモデル動物になる、という話を取り上げている理由です。動物と人間では、疾患発症の条件が異なっている事が有るため「動物実験では成功したが、人間では効果が見られなかった」が起きるのです。*/

その為、他の手法での予防・治療が探索されていました。


新たな手法の開発

現在では「神経原線維変化数、神経脱落数、認知機能低下に相関がある」、という事が明らかになっているため、神経原線維変化・神経脱落の抑制によって、脳の機能低下を抑えこもうという方向で研究が進められています。

研究者達は、モデル動物であるマウスでタウ蛋白質の凝集過程を詳細に解明し、「オリゴマーという塊を形成する(顆粒状タウオリゴマー)」状態が、タウ線維の形成につながっている事を明らかにしています。このタウ繊維が集まる変化が生じると、脳神経の構造が破壊され、死滅してゆく状態になるのです。

タウオリゴマー
参考図:国立研究開発法人国立長寿医療研究センター


ならば、というわけで研究者達は「顆粒状タウオリゴマー」の形成を阻害する事を目指して、それを実現できる化合物を探し始め、実際にマウスの脳で効果を発揮する物質を発見した、というのが今回の話になります。


カテコール化合物

発見されたのは「カテコール化合物」という物質でした。

その後、この物質(と酸化物)は、タウ蛋白質が「顆粒状タウオリゴマー」に変身するのに必要な「タウ蛋白質のシステイン残基」という部分に結合してしまう為、タウ蛋白質がタウオリゴマーになるのを阻害している、という事が解明されました。

投薬の結果、タウ蛋白質は「顆粒状タウオリゴマー」にならないので、それが集まった状態の「タウ線維」が作り出されなくなりました。「タウ繊維」が存在していないので、脳の神経を死滅させる状態も作り出されなくなりました。

簡単に言えば、「脳の細胞を死滅させている状態を作り出す原料の生産を止める事に成功した」のです。

今後は「タウ蛋白質のシステイン残基」に積極的に結びつく化合物を探索する事によって、アルツハイマー病の進行を抑制できる、つまり脳の活動が損なわれる速度を遅らせる事を可能にする薬が開発される事になりそうです。


マウスでの結果ですが ・・・

モデル動物であるマウスでの成果です。人間での結果ではありません。

でも、人間に対してプラスの影響があったかどうかは、長期的に処方を受けている患者さん達でどのような状況が見られるかを検証するという事でもある程度可能でしょう。もし人間でも同様の効果が発揮されているなら、まあ有効用量の問題はありますが、長期処方を受けている高齢の患者さん達の認知症発症率は低下しているはずです。


認知症の進行を止める世界で初めての薬になるかもしれない」、というのが研究者の言葉ですが、「人での効果をできるだけ早く明らかにしたい」のなら、一刻も早く現在薬を投与されている人達での検証をお願いします。

今からサルなどで投与実験をして ・・・ では間に合わないのです。団塊世代に薬が予防的に使用できる場合、脳細胞の減少が抑えられ、今後のアルツハイマー型認知症の発症が大きく減少します。

それは社会的な負担が激減するという事を意味するのです。一刻も早い検証を願います。


プレスリリース

認知症の治療薬開発に道拓く―長寿医療センターが理研、同志社大と共同で「神経細胞脱落」の抑制実験に成功―
http://www.amed.go.jp/news/release_20151216.html
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター



投与された薬の情報

薬品名:プロタノールS錠 15mg/錠
成分(一般名):dl-イソプレナリン塩酸塩
薬価:26.2

用法:通常成人1回15mg(1錠)を1日3~4回経口服用。
メーカー:興和

心臓の収縮力を強めたり、心拍数を増やす。

処方薬(医師の診察による服用指示が必要とされる薬)


【重い副作用】
低カリウム血症。重い不整脈。




人間の脳の神経細胞の減少を防ぐ効果があるのかどうか、また効果を得られる用量がどのレベルなのかは現時点で不明です。それが重篤な副作用を引き起こさずに服用できるものかどうか、もう少し見ないとわかりません。

日本の高齢化の状況は「時間との競争」なので、ちょっと期待。