Eurosurveillanceに、国立保健医療科学院の論文が出ていました。

国立保健医療科学院は「国や自治体の責任で行われる病気の予防や健康増進のための活動推進を行っている」組織で、今回の論文では西アフリカという日本から遠い国で発生した「エボラウイルス病(エボラ出血熱)」についての日本の対応と今後の新興感染症対策についてまとめられています。

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日本でのエボラウイルス病疑い患者対応

日本では「エボラウイルス病」は流行していません。その為日本で対応されたエボラウイルス病は、全員が「エボラウイルス病流行国の人」もしくは「エボラウイルス病流行国からの帰国者・経由者」になっています。

日本では2014年8月1日から検疫を強化し、旅行者に対する働きかけを開始しています。空港内のポスター、機内アナウンスなどが行われ、万一の場合には地域の保健所に連絡する事を呼びかけています。

その後に流行が西アフリカで激化した事や非流行国でのエボラ発症事例が相次いで報じられたことなどを受けて、検疫措置は強化されて、エボラ疾患かもしれない症状が見られた人への隔離措置の実施や、流行国からの帰国・来日のケースへの健康管理措置の導入などが実施されています。


旅客管理の厳格化

こうしてエボラウイルス病の国内での流行を防ぐための措置が強化されていた初期に、実は「健康観察期間中」だった男性が、発熱という症状で近所の病院を受診し、その際にエボラウイルス病の流行国への渡航歴を申告していなかった、という事例が発生しました。

その人は「一般病院を受診した後に保健所に連絡」し、発熱が確認された為に隔離措置がとられています。

幸いエボラウイルス病の確定診断では「陰性」、つまりエボラウイルス病ではなかったのですが、もしその人がエボラウイルス病を発症していた場合には、「患者を診察した医師・病院の医療従事者」、「同じ病院に来院している患者」などに二次感染が生じていた危険もあった為、エボラ流行国からの帰国者に対する指導は改訂されました。

  • エボラ流行国からの来日の場合、検疫の際に症状が有ったなら「隔離」
  • 日本入国から21日は検疫所に一日2回、検温結果を報告する
といったところが、強化された部分です。

万が一健康観察期間中に何らかの症状が出た場合は、すぐに「自己隔離」を行い検疫所への報告後に「感染症指定病院」に入院する、という手順が定められています。


日本のエボラウイルス病疑い患者

現在までの期間に「エボラウイルス病の疑い患者」として日本国内で報告されているのは9人ですが、属性は30歳以下が1人。30歳から50歳までが6人、60歳以上が2人で、男性が7人、女性が2人という事になっています。

エボラ流行国別にみるとギニアからが4人、リベリアからが3人、シエラレオネからが2人。患者の国籍で分けると日本人が6人、ギニア人が2人、プラス非公開が1人でした。

エボラウイルス病の疑いが持たれた際の症状は、発熱が9人、身体に発生した痛みが2人、寒気を訴えた、咳が有った、頭痛が有ったというのがそれぞれ1人です。熱が有った人がエボラ疑い患者として扱われたという事のようです。

何らかの自覚される接触が有ったのは1人で、エボラ患者の遺体をおさめた袋に触れたという事例で、発症かもしれない状況は、空港外での健康観察期間中だったのが6人、空港での隔離が行われた人が3人です。


ちなみに検査結果は全員「陰性」でしたが、それぞれの「エボラ疑い患者」について症状の原因となったのは「マラリア」が4人、「インフルエンザ」が1人、その他が4人となっています。



予防の為のワクチンが未開発だったり、科学的に有効性が確認された標準治療が存在していなかったりする「新興感染症」は、初期対応をしっかりして感染拡大を防ぐ事が重要です。

21世紀は、人口増加によって森林の開発がより進み、人獣共通感染症があたらに姿を現す懸念が強く持たれています。そういった状況で、エボラウイルス病での対策で有効だった部分、初期対応で詰めが甘かった部分をそれぞれ見直し、今後の対応に生かしてゆくことが重要だと考えられています。



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