非常に面白いコメントがついていたのでご紹介します。

それは、「加熱殺菌」についての話についてつけられています。「たけのこ」さんという人からのコメントですが、どうも問題についての視点が異なっている様に思われますので名誉の為にコメント本体は伏せてあります。


コメントを読んで興味深いと思ったのは、その人が「地域の保健所の指導・監督」が定期的に行われる事が義務づけられている施設に対する基準が、非常に雑菌が多く、また精密な機器も存在していない「家庭での調理」に当てはまる、と誤認している部分です。

追記:ご本人から「加熱方法のオフィシャルな基準」を探していたというコメントがありました。私の読み取りが足りなかったようです。


厚生労働省が出している「業務向け指針」は、きちんとした管理がなされ、適切な調理が行われ、多くは毎日「検食」という、調理品の一部について細菌培養試験を行う措置をとる食品提供側に向けられたもので、専門知識と道具と腕を持つプロ向けの基準です。小規模な一般の食堂やレストランなどに適用されるものでさえもありません。

/* 検食というのは、万が一の食中毒などのリスクを低下させ、何が原因となっているのかを迅速に確認する為に行われる措置です。食品会社や食事を提供する施設、食事を伴う宿泊施設などのうち大きな所では毎日必ず実施されます。

当然ですが、食品提供者には指導が定期的に行われ、従事者達に対する研修も定期的に行われます。家庭で同じことが行えるとは到底考えられない手間がかかります。もちろん費用も。*/



コメントした人は
厚労省は「63度30分以上の加熱」を豚の食肉の基準としているようなのですが、 ブログ主様は厚労省の見解を妄言とおっしゃっているのでしょうか。 」
とわざわざ私が文書の作成時に使用した厚生労働省からPDFをリンクしていますが、それが意味するところを理解しているのかどうかはわかりません。


私が引用しているのは「業務として調理加工を行い第三者に提供する」事での基準ですが、例えば調理加熱中に3か所の温度を、検定を受けた温度計によって測定するなどという手間は、うれしくないものです。熱容量が小さい鍋など使っていようものなら調理温度はすぐに低下してしまいます。/* 業務用の加熱機器(例えば開放型の佃煮なべなど)は一般に巨大なので、あまりそういう事は起きないそうですが、それでも手間だよ、という話は聞いています。*/

また当然ですが、厳密に環境中の細菌管理が行われ、精密に温度管理ができる機器を使用し、人間が極力介入しない密閉された清浄空間での調理中に厳密に温度測定が行われる食品製造会社に対して、「63度」が妄言だなどとは言いません。また彼らは何か有った時に自らの会社の社運がかかる事になるのですから、本当の意味の自己責任で運用が可能です。

ただ良く知られているように、加熱不足での食品腐敗・細菌の繁殖による食中毒は後を絶ちません。最近も報じられた様に何十年も同じ実習を行ってきている水産高校で実習の為に作成された缶詰でさえ、加熱不足で腐敗が生じ、缶が膨張してしまい「緊急回収」が行われたりもするのです。

/* 缶詰を作成する為の機器は「圧力をかけた高温調理が厳密に行える」のですが、それでも、まれに失敗が起きるのです。また食品の最初の状態がバラバラである事は当然の事実で、それ故に製造時の温度管理を含めた品質管理は、コメント主が考えているよりもずっと難しいのです。

原理的に可能であるという事は、実はそういう場合には最も優先度が高い選択肢ではありません。*/


家庭での調理は、基本的に調理室の殺菌作業が定期的に行われている「高校での調理実習」よりも、危険度が高い状態で行われます。もっと解りやすい言い方をすれば、素人がプロの為の規則やプロに求められる厳しい基準を理解しない状態で、一部だけ都合よく解釈すると、危険だという話です。

普通の人は「プロが使う安全基準をプロが使うものとして理解できる」のだ、とも考えます。「プロにそれができるのだから俺にも可能なはずだ」、は明らかに妄言です。普通はそうは考えません。

例えて言えば、「300キロの最高速度が出る競技用のレーシングカーを、素人が市街地で最高速度で運転する」事は、本人にとっても周囲にとっても危険だ、と考えます。元記事を読んでいると理解できるはずですが、それは「素人が家庭での調理でリスクが高いタンパク質の低温調理を行う」事についての話です。

再度繰り返しますが、プロが安全な温度管理を行える機器を使用して提供する料理について、何もコメントする必要はないのです。/*ただしプロでも機器の性能低下や故障によるトラブルは免れないそうです。*/


もちろんここのメイン読者である小学生の子供達には、そういう状態は存在しません。またその基準の後ろにある、安全性についての判断原則や運用指針の知識も持ちません。ですからより高い安全基準を前提として話をする事は義務だと考えます。

記事中にでてきた数値は、そういう意味で安全側に振られた数値(保健所が指導している数値である75℃の中心温度を1分)を採用していますし、周りの大人には必要な部分の説明をお願いしてもいます。まあ、大人達は「肉はしっかり加熱しないと危ない」という時代に育っているので、彼らのちゃんとした加熱は「高温にしすぎる」とう難点もあるのですが。

ここは子供向けのサイトで、大人は説明してきた様な事実を「常識として理解したうえで記事を読む」という前提ですので、今回のコメントはちょっと困りました。普通の子どもには今書いているようなレベルでの説明は不要ですので、余計な所は切り詰めてありますから。


ちなみに、家庭で同様の措置を取り、安全に調理できるという自信がある場合は「自己責任」でよいという事は申し上げてあります。それは「愚行権」として常に有効です。

私は実例として記事の最後に、「くじらの刺身は美味しい」とわざわざ付け加えています。もちろん竜田揚げも美味しいのですが、高温調理されてより安全な状態になった揚げ物よりも生のクジラの方が自己責任として解りやすいかな、と考えました。

また、実際にそれが可能な環境と道具を用意し、自分は家で安全に調理できるという人がいても、今の時代には不思議はありません。そういう人が「自分と完全に状況が異なる」人に、自分の手法を宣伝する事をしなければ、問題は無いと考えます。

担当者の知識不足で、雑菌をわざわざ繁殖させかねない危険な発酵手法を公開するメディアもあるので、そういった部分はとても不安ですが。


最後に「たけのこ」さんへ

私は「きのこ派」なので「たけのこ」は基本的にスルーですが、今回は不定期記事にコメントが有って、より詳しい説明が必要そうだったので記事として出しました。多分あなたの近所の保健所でも、業務用の基準で家庭での低温調理を行う事は止めると思います。仕事が増えるだけですから。

このレベルで納得がいかない場合、コメントを残してください。あなたが理解できるまで、何度でも説明します。外側からそれを読む人達も雑学的な知識が増えて楽しいかな、とも思います。

ちなみに「絶対に誤認をされては困る」問題の説明事例は、二タ見剣一氏は何を間違えたのか、というシリーズで出しています。あなたがそのレベルの詳細な説明を必要とするとは思いませんが、納得がいかない部分はその旨を、理解できた部分はその旨を、コメントしてくれると手間が省けて助かります。


念のために付け加えるとあなたがリンクを張った「厚生労働省」からも記事にアクセスされています。このBlog の性質上確認アクセスは国立の研究所や大学の研究室、企業、メディアなどから継続的に来ているので。

子供向けの説明記事は希少品なので、たまにまとめ読みしてストックするというのが「賢い親」としての対応なのだろうとも考えています。実際にそういう行動が多いです。まあ現状では特にここの記事に問題があるとはみなさんお考えではないと思いますよ。

コメント欄が無いのは、かつてのBlog「科学ニュースあらかると」から同じです。コメントはかつては掲示板に行われていました。もしくははてなブックマークでのコメントとして。コメント欄が無いのは、対象が学齢期の子どもなので、新聞を読んで親が難しい部分を説明をする様なタイプの扱われ方を想定している為でもあります。

ここには掲示板が無いので、実際は少し不便なのですが。


あと老婆心として付け加えます。
相手と自分の意見が異なっている場合、「相手と自分が話している事が異なる」、「相手と自分との知識レベルが異なる」、「相手と自分が重視する部分が異なる」などが要因として多く見られます。

大切なのは「意見が異なっている」部分ではなく、「何が違いを作り出しているのか把握し、そこから自分の知識を更新する」事です。また、自分と相手の意見について判定するのは第三者であり、その人達が判断を行える情報を解りやすく提供するのが一番大事な部分です。

また議論は「現状を改善できる建設的な計画」を多くの合意を得て作成する手法で、その場での勝ち負けの問題では無い事も覚えておくと先々有利になります。

この記事は単なる背景説明の為の記事です。読んだらコメントくださいね。


追記:丁寧にコメントいただきました。ありがとうございます。
やはり論点が違っていた様ですね。同じ資料を読んでいた事も解りました。

話の要点は、「一般向け」には安全が確実に保証される、タンパク質(細菌やウイルスはタンパク質です)が確実に凝固する温度、つまりそれらが活動不能になる75℃での加熱調理が推奨されているという事です。飲食店向けの低温基準を一般に使うと危険が大きいという事が理解できていれば特に問題はなかろうかと考えます。

あなたのコメントを読んで、赤い文字と強調で文章を装飾し、数字を加えました。こういう書き方ならより読み間違えが減ると思います。



NHKが今日出したNASAの南極の氷の話は「2015-11-01」に出しています。NHKの記事もここの記事も、ネタもとはプレスリリースで同じです。ここの記事には説明と問題点の指摘が両方載せてありますので、何を目的にここの記事が書かれているのかを確かめるのにも都合が良かろうか、と思います。時間が有ったらNHKと並べて読んでみてください。


私は鶏ハムを仕込み終わって「たけのこ」さんのコメントを読みました。「食べ物の安全」は、より確実な方向を選択するのが大事だろうと、私は考えます。また特殊な調理は、適合する器機を持っているプロにまかせるのがよかろう、とも思います。

うちの家主さまも、「病院にかけこめば助かるものばかりではないので、安全な調理を行って食べてほしい」そうです。また今年のノロ・ウイルスは新型が勢力が強いそうです。免疫が無い人がほとんどですので、魚介の生食は注意してほしいな、とのことでした。

冬魚や牡蠣が美味しい季節ですが、どうぞ安全においしく召し上がってくださいね。


調理歴が半世紀をはるかに超えている古猫からのお返事でした。因みに国立大学の理系です。仕事で使っていたのはPDP(C言語が発表される前)と初期のVAX。新しい情報と料理が大好きです。


おしまい。