さて。何度か説明した様に、地球温暖化での大きな問題の一つは「陸氷の融解による海水面の上昇」というものです。

特にグリーンランドと南極大陸に存在する膨大な陸氷の動向が、未来の海面を左右するとされていて、その状態についての研究は数多く行われています。

最近の報告についての記事:化石燃料を燃やし続けると海面は50メートル上昇する



温かい部屋の中の氷は最終的には溶けてしまうのだ、という話が最も解りやすいのですが、地球規模の話としてみると、南極では大陸の外縁部から巨大な棚氷が分離している事がたびたび報じられ、温暖化の影響が現れている事を感じさせてもいました。

ところが、NASAのゴダード宇宙飛行センター(GODDARD SPACE FLIGHT CENTER)が今回報告した衛星による南極の氷の厚みの観測結果によると、2003年から2008年にかけて行った観測の結果は、西南極と南極半島の沿岸地域の氷は確かに融けだしているが、それよりも東南極領域での降雪による氷の増加の方がより大きいのだそうです。


実際には南極の氷は減ってはいなかった?

観測に使用されたのは「ICESAT」と呼ばれるNASAによって打ち上げられた地球観測衛星で、搭載されているレーザー高度計で変化を調査しています。

そして得られた結果は、現在温暖化を議論している「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の主張、南極大陸での氷の融解が進んで海面の上昇が後押しされている、というものが実態とは異なっているという事を示すものでした。

実際の数値を示す図が作成されていますが、著作権の関係で表示はできません。興味のある方は、下のリンクから図を眺めてください。

http://www.eurekalert.org/multimedia/pub/102397.php

その図が何を意味しているのかというと、1万年前から始まった「間氷期」である現代では、南極大陸での積雪量が増加している為南極大陸全体での氷の増加が起きていて、実際には現在もその状況が続いているという事です。


今回の報告で、研究者達は西南極と南極半島の沿岸地域からの氷の損失量よりも東南極領域での増加量の方が多く、それが1992年から2008年まで続いているという事を計算によって導きだしました。

それは、「これまでの所、南極からは氷が流失しているが、それを上回る量の積雪が有った為、全体としては南極の氷は依然として増え続けていた」、という事を示しています。

研究者達はこの事実によって、「現在の南極の状態は、海面上昇を引き起こしていない」と結論付けました。ただし、それは南極大陸の氷が安泰だ、という事は意味しません。


測定値は何を語ったか

その数値が示すのは、「これまでの状況」であって、もちろん「今後もその状態が続く」という事を保証しているものではないのです。

今回NASAの研究者達は、1992年から2001年にかけての期間に南極の氷は1年あたり「1120億トン」増加していたという事を、欧州が打ち上げた「ERS(リモートセンシング衛星)」に搭載されたレーダー高度計の数値から読み出しました。

そしてNASAの「ICESAT」が2003年から2008年の間に観測した数値は、氷の増加が1年あたり「820億トン」の増加で、「ERS」が観測した数値に比べると明らかに減少している事がわかります。

一方観測結果は、西南極と南極半島の沿岸地域での氷の海洋への流出などの状況を正確に示しているそうです。それは、最近の氷の流出が増加している事を示していました。

つまり問題は、積雪により氷が増えている地域、東南極領域での氷の状態が「増加」していたとして、その状態が今後も続くのかどうかという部分と、海洋への氷の流出が続いている西南極と南極半島の沿岸地域などでの「氷の減少」が、均衡点を超えて「南極全体での氷の量の減少」が起きるのかどうか、という部分にあります。


研究者達は現在までの様な氷の損失の増加が西南極と南極半島の沿岸地域で今後も続くならば、それは東南極領域での氷の増加量を上回り、20年から30年後には総量として南極大陸の氷は失われてゆくことになる、と指摘しています。


今の海面上昇は何が引き起こしているのか?

まとめてみましょう。
  • 現在の南極の氷は、まだ増え続けている
  • 現在の南極での氷の損失量は増えてきている
  • 現在の南極の氷の状況は海面上昇に寄与していない
さて ・・・ 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、既に海面の上昇に南極からの氷の融解分が寄与している、という事を主張していました。でも実際には南極の氷は増加しているので、その分海面が低下しているはずだ、というのが研究者達の主張です。

その場合は、現在海面を上昇させている「隠れている悪者」がどこかに存在しているはずです ・・・ 姿の見えない何かが存在しているのでしょうか ・・・ 海水温の上昇に伴う「海水の熱膨張」が推定値よりも大きいという事もありうるのですが ・・・


まあ、実はこれは発表が行われたばかりの話で、今後は広大な南極大陸全体での精密な測定の困難さや、測定機器の精度などについても議論が起きる事になるだろう、と外部の研究者は指摘しています。

そういうわけで記事の題名が「南極大陸の氷は厚みを増している?」、という疑問符付きに成りましたが、NASAは2018年に「ICESAT」衛星を更新する予定で、より高性能な観測機器を搭載した「ICESAT-2」の開発が進んでいるそうです。それは南極の氷の厚みの変化を「鉛筆の厚さ」の精度で観測できる、とコメントされています。

より高性能な測定機器を搭載した観測衛星の投入。それは、「南極の氷は実際には増えているのか減っているのか」、という事を長期間の観測によって明らかにしてくれるかもしれない、と記事は伝えています。


もちろん「地球温暖化」の影響は海洋だけに生じるわけではないので、温暖化を緩和する為の方策は迅速に探し出されなければなりません。まだ「帰還不能点」を通過していない事を祈りながら。



地球温暖化問題というのは、実際には「人口爆発問題」の一つの側面です。

現在の人口は私が生まれた時のほぼ3倍です。それで問題が生じないほうが、むしろ不思議なくらいだと考えます。それに加えて「生活水準の向上」が生じてもいます。食料問題も、資源争奪戦争の不安も、実際には根は同じという事です。

とても厳しい、としか言えないのが辛い所です。