WHOが発表している西アフリカの今日のエボラウイルス病の患者総数は2万8388人で、そのうちの1万1296人が死者になっています。その数字はもうほとんど増えていません。

そんな中で、シエラレオネの「最後の患者」が退院したという記事で説明した様に、シエラレオネは2015年9月27日に第二回目の最後のエボラ患者」の退院を迎えました。

今日はもちろんそれに引き続いて、 「エボラ清浄国・エボラフリー」に向けて二回目の挑戦が始まります。

エボラ清浄国の認定

エボラ清浄国、つまり国内でエボラウイルス病が流行していないという状態が正式にWHOによって認定されている状態になるためには、決められた条件を満たす必要があります。

それは「エボラウイルス病(エボラ出血熱)を引き起こすエボラウイルスの最長潜伏期間」とされる21日の2倍に当たる42日間を、新たなエボラ患者を報告せずに乗り切る、というものです。

これは見かけほど簡単ではありません。


リベリアは「エボラ清浄国」に認定されたが ・・・

例えばエボラウイルス病の流行によって1万666人がエボラウイルスに感染し、そのうちの4806人が死亡したとされているリベリアは順当にエボラ患者の減少を報告し、治療を受けているエボラ患者がゼロに成り、新たなエボラ患者の報告が無い状態で順調にエボラゼロが続いていた段階で、突然エボラ患者の出現が報告されました。

周囲に既に一人もエボラ患者が存在していない状態で突然発生したその「新たなエボラウイルス病」は、実はエボラ治癒者の男性から、パートナーの女性に性感染症としてエボラウイルスの感染が起きたと考えられたケースです。

非常に不運な感染事例ですが、その結果、エボラゼロへのカウントダウンが振り出しに戻ってしまう、という事になったのです。

もちろん、リベリアはその後に再びエボラ患者ゼロを積み上げて、2015年5月9日に「WHOによるエボラ清浄国認定」を無事に勝ち取っています。

参考記事:WHO:リベリアはエボラフリーだ

その後にリベリアは、エボラウイルス病の流行が発生した為に様々に科されていた「制約」が徐々に解除され、普通の国に戻ってきていると考えられ、当然ながら依然として流行が続いていたギニアやシエラレオネの報道が、エボラウイルス病の報道という形になっていったのです。


二度目のエボラ流行

でも、残念ながらそれは昔話の終わりの様に、「その後、リベリアではずっとエボラの無い平穏な日々が続きました。」、という事にはなりませんでした。

2015年6月30日。リベリアでは再びエボラ患者の発生が報告されています。しかもそれは「死者の遺体へのエボラ検査」による発見だったのです。地域社会で生活していた人がエボラ患者で、そのことが認識されないまま死亡に至ってしまったこの事例では、一緒に行動していた友人達など6人に感染が広がり、最終的に死者が2人報告されています。

この2ヶ月近い「エボラの空白」の後に出現した「新たなエボラ患者」については、おそらく性感染症としてのエボラ感染だと考えられているのですが、正式に感染源が特定されたという報告は出ていません。

エボラ疾患では、エボラウイルスが血液中から発見されなくなった後も「特権器官」と呼ばれる眼や精巣などにウイルスが長期間隠れている状態になる事が既に確認されているため、エボラ患者がいない事が、新たなエボラウイルス感染が生じない事を意味しないのです。

もちろん現在のリベリアでは「正しい知識の普及」と共に、性感染症を予防する為の行動を促す注意喚起、性感染症を予防する為の避妊具の配布、エボラ治癒者の為の診療体制の整備などが行われていますが、治癒から少なくとも半年程度はエボラウイルスの残存の可能性が高いとされている為、新たな患者発生への警戒は続いています。


シエラレオネはどうなるだろう?

シエラレオネのエボラウイルス病の話で「リベリア」についての説明が長くなったのは、実際に「エボラウイルス病の流行を抑え込む」というのが、とても大変な作業なのだという事を、もう一度振り返る為でした。

シエラレオネのエボラ清浄国獲得では、既にそれを達成した隣国リベリアでの経験が役にたつ事が何よりのプラス要因なのですが、それでもなかなか期待されているようにすんなりエボラ患者が報告されない日々を積み上げているという事にはなっていません。

例えばシエラレオネは既に「シエラレオネ最後のエボラ患者退院」を、大統領の出席を得て祝っていますが、エボラ清浄国達成の為の必須条件である「42日間連続したエボラ患者の報告が無い状態」のカウントが開始されて一週間もたたないうちに、67歳の女性が死後にエボラ患者だった事が発覚し、再びそこを起点とした小規模な集団感染が発生しています。

それに加えて、その後に16歳の少女がエボラウイルス病で死亡する「別のエボラ事例」も報告されていて、両方とも「エボラウイルスがどこから被害者達にとりついたのか?」、という部分が不明なままです。

やはり、エボラウイルスの封じ込めはそうやすやすとは進まない事がわかります。


ワクチンという光

ただ。 シエラレオネはエボラウイルスを封じ込める為にリベリアよりも有利な条件を持っています。リベリアがエボラとの闘いの最終段階にあった時にはなかった「防御の盾」が存在しているのです。

「VSV-EBOV、rVSV-EBOV」などと呼ばれているエボラウイルスワクチンが、現在臨床試験として使用できるようになっています。

それはカナダの国立機関の研究者によって開発されたワクチンで、WHOが主導してギニアで臨床試験が開始され、初期段階の報告で「接種を受けた人達は7日程度のワクチンが有効になるまでの期間を除いて、誰もエボラウイルス病を発症しなかった」、とされています。まだ初期段階ではあるのですが、防御率100%なのです。

既にシエラレオネでも、「エボラ患者が発見された場合に、その周囲の感染リスクが高い人達にワクチンを接種する」、という事が始まっています。

エボラウイルスは「エボラウイルス病を発症した段階の患者」の体液に直接接触した人達に感染を広げてゆきます。だから「患者の周りにいて、直接患者と接触する、生活環境でエボラウイルスと接触する危険性がある」人達にワクチンをあらかじめ接種しておけば、エボラウイルスは「免疫を持った人たちの防護壁」から外に出る事が出来ずに、自然に消滅してゆく事になるのです。

シエラレオネでは、リベリアとは違ってワクチンが使えます。それはとても大きな力なのです。

というわけで 、改めて開始されたシエラレオネの「エボラ清浄国・エボラフリー」に向けての二回目の挑戦が上手く進む事を祈ります。既にエボラウイルス病の流行は一年以上も続いているのです。もうエボラウイルスにはお引き取り願いたい、と心から思います。


2015年9月29日。
シエラレオネのエボラウイルス病患者は1万3911人でそのうちの3955人が死亡したと報告されています。