シエラレオネでエボラ出血熱を発症して、本国に緊急搬送された患者が、先週2名出ています。一人は英国へ。もうひとりは米国へ。それぞれの母国で、既に治療は開始されました。

そして、その情報と共に伝えられたのが、「感染可能性がある他の人達も母国に戻る」という情報です。

これは、「エボラ出血熱を発症するかもしれない人達が万が一発症した場合でも、初期段階から先進国型の高度な対症療法で支えて、生存率を高める」ためにとられた手段で、その人たちがエボラ出血熱を発症しているわけではありません。

では、そういった人達は現在どうなっているのか、という事を眺めてみましょう。



健康観察 英国

エボラ出血熱の患者である事が確定している衛生兵(軍所属の看護師)は、既にロンドンにある感染症の高度治療を行える専門施設を備えた病院である、ロイヤルフリー病院で治療を受けています。


同じ英国空軍機で英国に戻った2名の軍隊の関係者達はロイヤルフリー病院で状態を評価されましたが、現時点でエボラ発症を示す状況は確認されなかった為、退院しています。

ただし、適切に管理された民間宿泊所で21日間の健康観察が行われます。

英国では、さらに2名が本国送還という措置を受けています。それらの人達はニューカッスルにあるロイヤルビクトリア診療所に運ばれて評価されました。

これは、英国が複数のエボラ患者が同時に発生した場合に備えて策定したエボラ対応計画に基づいた措置だそうです。

専門的な治療を多数の人間に一か所だけで提供するのは、非常に困難であるため、リスクを判定するなどの作業は分散される事になるのです。

既にニューカッスルに収容された2名のうちの1名は退院しました。残る一人が評価を継続中だそうです。もちろんその人たちも21日間の健康観察の対象になる予定です。



健康観察 米国

エボラ出血熱の患者である事が確定している医療従事者は、民間航空会社であるフェニックス航空の医療ジェットによって緊急搬送され、既にメリーランド州にある米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の隔離治療施設に入院し、治療を受けています。初報が「重症」であるのが気がかりですが。


米国のケースでは、10人が米国本土に送還されています。もちろんこちらも「一か所で多数の患者を受け入れる事は不可能」という事で、分散が図られている模様です。

以前全米でエボラ出血熱にも対応できる施設が4か所ある事を説明した際に、「定員を見て、その限界数まで患者を収容可能だ」と考えてはいけません、と説明しています。

エボラ出血熱の治療では「対応する医療従事者」が膨大に必要になるため /* 一人に対して30人規模の医療チームが組まれている */、専門家達の訓練や常時配備といった側面を考えると、一か所で一度に治療が可能なのは2人が限度だと施設の広報担当者もコメントしています。


最新の情報では、米国に搬送された10人のうちの4人がネブラスカ大学医療センターで健康状態を判定されているそうです。全員現時点では「エボラ出血熱の兆候は見られない」段階です。

残りの人達についても、現在エボラ患者の治療が行われているNIHの研究施設か、アトランタのエモリー大学病院で健康状態の判定が行われる予定です。これらの施設も、既にエボラ出血熱患者の治療を行い、治癒させた実績を持っています。

現在の評価で「エボラ出血熱では無い」とされた人達は、その後の21日間を施設の近辺の宿泊施設で「自主隔離」し、万が一の発症に備える事になります。

西アフリカからの感染疑い者の搬送を行えるのがフェニックス航空だけです。その為、最後の人達が米国に戻るのは明日になるそうです。


医療従事者達の安全

この記事で触れられている「エボラ健康観察対象者達」は、軍関係者達を含めておそらくすべてが西アフリカでのエボラ出血熱支援の為に志願したボランティアだと考えられます。

そういう人達にふりかかる「もしかしたらエボラに・・・」という深刻な不安は、現状ではまだ取り除けません。実際に同僚がエボラ出血熱を発症している、という事ですから。

もちろん「エボラワクチン」があれば、その不安は解消されます。日本の病院の看護師さん達は、空気感染する危険な麻疹の患者が目の前にいても「自分が麻疹を発症する」という危険を感じる事はないでしょう。

なぜなら、ほとんどの人達は「麻疹の終生免疫 /* 麻疹に感染して発症する事が無い状態 */ を持っているからです。幼児期のワクチン接種によって。

エボラでもワクチン接種によって同様の効果が期待できるのですが、残念ながらまだワクチン臨床試験での評価段階なのです。こういう報道を目にするたびに、エボラとの闘いの為の武器が欲しいと切実に思います。



それにしても、英国軍の衛生兵の女性は、ワクチン接種を受けていなかったのでしょうか? 

西アフリカで臨床試験中のGSKワクチンは、英国での臨床試験も進められていたはずなのですが ・・・ 気になります。